寅ちゃん

帝国陸軍 南支那方面隊狙撃兵上等兵
とらちゃんの 青春の思い出だ
二十四歳の時 復員したと言った

海の男のとらちゃんは
冬になると
犬をつれ
ウサギ狩りに出かけるのが趣味だった

底冷えのする晴れた朝
鬼は
とらちゃんと狩りに出た

昼近くまで
山野を駆け巡ったが
何もとれず
草むらの 日だまりで
早目の昼食をとった

銃を持ち直したとらちゃんは
狙撃兵は こうやって
まわりの風景にとけこみ
向こうにいる上官の合図を
何時間でもまっている
そういって 遠くを見た

支那大陸で何をおぼえた?
ろくでもない事ばかりで
役に立つ事は何もなかったよ
そういって 思い出すように
語り始めた

朝早くから二人で
橋のたもとに歩哨に立つんだよ
卵を一個づつ持ってこなきゃ通さん
そう言うと
その日のうちに
ざるは卵でいっぱいになったさ

その卵は 部隊に持って帰るのか?
いいや
支那の市場で売ったよ

悪い奴じゃ
もっと 悪い奴がいたよ
と とらちゃんは吐き捨てるように言った

きれいなねえちゃんが通るだろ
すると
一人がいろいろとからんで尋ねるんだ
もう一人が近づいて 反日ビラを
差し込むんだよ

そういって 一息つき
そのビラを取り出して
お前は 反日工作員か?
そう言って もっとくわしく調べると
泣いてる支那娘をどこかえ連れて行く
どこかって それは知らないね

ねえちゃんは 泣き疲れると
どこかえ 行ってしまったと言う話だ

支那のねえちゃんは
さるまた はいとらんから
パーっとやると 丸見えだったよ
ひっひひ。。。と笑った

枯れ草に冬の日だまりが暖かだった

これは死ぬまで言わないつもりだったが
もっとひどい事件があったんだと
とらちゃんは 語り始めた

憲兵隊の一個小隊が
民家に 臨検に入ったんだ
さんざん 家捜しをしたあげく
米びつに隠れておびえていた若妻を
引きずり出して

姑女が手を合わせて助けを乞う
その目の前で
輪姦に及んだ
終わった後 若妻は
台所の包丁を持ち出し
狂ったように暴れだした

憲兵隊の一人が銃を発射し
若妻の胸をぶち抜いて殺した

この事件は その日のうちに
部隊内に広まった

翌日 全員集合がかかり
この件は 軍事秘密となったから
生きてる限りしゃべるなと
命令が下った

軍事機密とはいえ
むごい事件だったよなあ
と とらちゃんは言い

少しは気が楽になったよ と言う

あれからもう 五十年あまりがたち
帝国陸軍も今はいないからね
おびえたように身震いをし
深い呼吸を一つした

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