ビキテマ高地

太陽が北よりに傾いた真昼の
シンガポオルの下町を歩いたのは
昭和四十八年夏の事だ

脱水症状を和らげるため
みさかいもなく
向かいの飲食店に飛び込んだ

中央のテーブルに
初老の男たちが四、五人
お茶をのみながら
談笑していた

身振り手振りを交えながら
必死に水とお茶を頼んだが
なんにも 通じなかった

困り果てて
どう言えば 水とお茶がもらえるかなあ
と つぶやいてしまった

すると 一人の老人が振り返り
おお ミジね ミジとお茶ね!
そう言って 店主に何か言った

おんなの子が
水とお茶を持ってきた
日本語がわかるのですね
お礼をいってからそう言うと
すこしだけよ と笑った

どこで覚えたのですか
十八の時 帝国陸軍徴用ネ!
早く覚えないと 
往復ビンタよ
怖かったヨー と言う

しばらくして 彼は言った
ビキテマ高地 知ってるか?
知りません
あの山のこっち側 
ジャングル あったよと指差す

五年程前 工業団地 作るため
ブルトーザーか掘ったよ
たくさんたくさん 白骨でたネ
みんな 日本兵が殺したよ!

鬼は立ち上がり 頭を下げ
申し訳ありません と言った
過ぎた昔の事よ と彼は言い
仲間に 何かしゃべった

仲間はみんな うなずいていた
そして
あなたがた 若い人たちには
関係ないことヨ
悪いのは テンノーヘイカ バンザイよ

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